怪我予防 2026-10-16
ボート部のマメ対策|手のひらの水ぶくれの予防・手当て・受診の目安
大学からボートを始めると、練習を重ねるうちに手のひらや指の付け根にマメができ、破れて痛む経験をする部員は少なくないはずです。ローイング(漕艇)は、オールのハンドルを握ったまま、何百回もの漕ぎ動作を繰り返す競技です。手とハンドルのあいだに摩擦が生まれ続けるため、手の皮膚のトラブルは身近な悩みになりやすいと整理されています。この記事では、ローイングのマメが起こる仕組み、練習の中でできる予防、できてしまったときの手当て、医療機関に相談したほうがよいサインを順にまとめます。
なお、この記事は公開されている資料をもとにした一般的な情報の整理であり、診断や治療の代わりにはなりません。症状に不安があるときは、自己判断せず皮膚科・整形外科などの医療機関や、チームのトレーナー・コーチに相談してください。
ボート部のマメはなぜできるのか
原因は「摩擦」と「握りしめ」
英国ローイング協会(British Rowing)が2020年に公開した資料「Dealing with blisters」では、ローイングのマメは、皮膚とオールのハンドルのあいだで繰り返される摩擦から生じると説明されています。同資料は、握力が十分でない場合やフォームに課題がある場合に起こりやすいとも触れています。
英国のジュニア向けローイング情報サイト Junior Rowing News の記事(Alex Riddell-Webster 氏、2021年4月)も、原因として「ハンドルとの摩擦」「強く握りすぎるグリップ」「汗」「汚れた用具」を挙げています。同記事では、ハンドルを強く握るのではなく、ブレードからぶら下がるように持つイメージが紹介されています。
ここから読み取れるのは、マメは「手の皮が弱いから」だけでできるのではなく、握り方・汗・用具の状態といった複数の要素が重なって起こりうる、ということです。
水ぶくれの正体
皮膚科・形成外科の医師が監修する医療情報サイト「byouki scope」(長谷川佳子医師監修、2017年11月公開)の解説では、靴ずれなどでこすれた皮膚が傷つくと、そこに液体がたまって水ぶくれになるとされています。この液体は皮膚を保護する役目があるため、無理に破らないほうがよいという整理です。これは靴ずれを例にした解説ですが、「摩擦で皮膚が傷つき、水ぶくれができる」という仕組みはローイングのマメにも通じる考え方です。
どの時期に起こりやすいか
出典で時期まで特定した資料は確認できていませんが、手の皮膚が競技の摩擦に慣れていない入部直後や、乗艇・エルゴの本数が急に増える合宿の時期は、手に負担がかかりやすい場面だと考えられます。無理に量をこなさず、手の状態を見ながら調整することが大切です。入部直後の体づくりや練習の進め方については未経験からのボート部入部ガイドや体験入部ガイドも参考になります。
練習の中でできる予防
ゆるく握る(最優先の見直しポイント)
Junior Rowing News の記事では、マメの予防でとくに重要なのは、ハンドルを必要以上に強く握らないことだと整理されています。強く握りしめるほど摩擦と圧迫が増えるため、指で「引っかけている」くらいの感覚で、手がハンドルの上で休める時間を作るというイメージです。
row2k に掲載された記事(Adam Bruce 氏、2014年1月)も、「適切なグリップは手を守る助けになる」というコーチの言葉を紹介しています。同記事は、必要以上に力みすぎると皮膚への負担が大きくなると指摘しています。
グリップはフォーム全体と結びついているため、自分では力んでいるつもりがなくても、疲れてくると握りが強くなる場合があります。次のような点をコーチや仲間に見てもらうと、癖に気づきやすくなります。
- フィニッシュで手首や指に不要な力が入っていないか
- リカバリー(漕ぎ終わりから戻る局面)でも握りしめたままになっていないか
- 疲れてきた後半に、握りが強くなっていないか
漕ぎ方の基本やスカル・スイープの違いについては、スカルとスイープの違いでも整理しています。
ハンドルを清潔にしておく
Junior Rowing News の記事は、ブレードのハンドルを清潔に保つことを予防の一つに挙げています。方法として、石けんを含んだお湯で洗う、薄めた漂白剤を使う、消毒用アルコールで拭く、といった例が紹介されています。海外の記事のため、使う洗浄剤は部の方針や用具の素材に合わせて選び、コーチや用具担当に確認してから行うのが安全です。
用具の手入れや購入費用の考え方は、ボート部の用具費用で扱っています。
テーピングで摩擦を減らす
同記事は、手にテープを貼ることも予防策として紹介しています。例として、ビニールテープ(電気工事用)、医療用の外科テープ、通気性のあるマイクロポアテープ、酸化亜鉛テープが挙げられています。
row2k の記事には、アスレチックテープを縦に折って両端を貼り合わせ、指にくぐらせるように巻く「テープグリップ」という工夫も紹介されています。ただし、これは筆者の経験に基づく方法の紹介です。テープの種類によっては皮膚が弱い人にかぶれが出る場合もあるため、まず短時間で試し、違和感があればやめましょう。
汗対策とグローブ
Junior Rowing News の記事では、汗が皮膚をふやけさせて摩擦を増やす可能性を指摘し、制汗剤が予防の一つとして紹介されています。ただし、雨や水しぶきで手が濡れる状況では効果が小さい、という但し書きも付いています。手袋(ローイング用や筋トレ用のグローブ)を使うかどうかは個人の選択とされています。大会や練習で手袋の使用に制限がないかは、チームのルールに従ってください。
予防策のまとめ
| 予防策 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ゆるいグリップ | ハンドルを握りしめず、力を抜く時間を作る | フォーム全体の見直しとセットで考える |
| ハンドルの清潔管理 | 石けん水などで洗う | 洗浄剤は用具の素材とチームの方針に合わせる |
| テーピング | 摩擦が起きやすい部位に貼る | かぶれや剥がれやすさを確認する |
| 汗対策 | 制汗剤などを使う例がある | 濡れた状況では効果が限定的 |
| 保湿 | 乾燥による皮膚のひび割れを防ぐ | 練習前後のタイミングを決めておく |
できてしまったときの手当て
基本は「清潔に保つ」
英国ローイング協会の資料は、軽いマメの手当てとして、患部を清潔に保ち、抗菌用の軟膏を塗って覆い、さらなる摩擦から守ることを示しています。Junior Rowing News の記事も、ぬるま湯と石けんで洗い、消毒クリームを使うことを勧めています。
日本の医療情報(byouki scope)でも、水ぶくれが破れたときはまず水で洗って清潔にし、皮膚ができるまでのあいだ乾燥させすぎないように保湿することが示されています。つぶれた部位の保護には、保湿性の高い絆創膏を使う考え方も紹介されています。
水ぶくれは、できるだけ破らない
日本の医療情報では、水ぶくれの液体が皮膚を守る役目をしているため、無理に破らないほうがよいとされています。破ると細菌感染のリスクが高まり、治るまでの期間が延びることがあるという整理です。Junior Rowing News の記事も、破れていないマメはできるだけ破らないようにする、という立場です。
一方で、同記事は、どうしても排液する必要がある場合の手順として、針を消毒し、水ぶくれの縁から排液する方法にも触れています。ただし、これは英国のジュニア向け情報サイトの紹介であり、自分で処置することを勧めるものではありません。大きく張って練習に支障が出る、破れそうで不安といったときは、トレーナーや医療機関に相談するのが安全です。
破れた皮はどうするか
英国ローイング協会の資料は、状況によっては水ぶくれの皮を取り除く「デルーフィング」という処置にも言及しています。ただし、清潔な環境で慎重に行う必要があり、素人判断で皮をむくことは感染や痛みにつながるおそれがあります。ここでも「自己判断で行わない」ことが基本です。
治りかけの手入れ
Junior Rowing News の記事は、治っていく過程で保湿して皮膚のひび割れを防ぐことを勧めています。row2k の記事でも、乾燥が皮膚のひび割れにつながり、痛みの原因になりうることが触れられています。硬くなった皮膚の扱い(削る・整えるなど)は、やり方によっては新しい傷につながるおそれがあります。自己流で無理に削らず、不安があればトレーナーや医療機関に相談してください。
医療機関に相談したほうがよいサイン
英国ローイング協会の資料は、次のようなときに医師の診察を受けるよう示しています。
- 赤み・熱感・膿など、感染を思わせる症状がある
- 腫れや痛みが強い
- 1週間たっても改善しない
- 感染が広がっているように見える
日本の医療情報(byouki scope)も、水ぶくれが破れた後に痛みが引かない場合は細菌感染の可能性があり、皮膚科や形成外科の受診を勧めています。膿が出ている場合は細菌感染によることが多いため、患部に触れずに洗浄し、清潔なガーゼで覆うとよいとされています。また、見た目は小さくても深い部分まで損傷が進んでいることがあるため、自己判断せず受診することが望ましいとされています。
部活では「このくらいなら練習できる」と我慢しがちですが、手の傷は感染すると練習から離れる期間が長引く場合もあります。主将やマネージャーが「手の違和感の段階で報告してよい」と決めておくと、部員が相談しやすくなります。
練習量とのバランス
手の状態に合わせて練習を調整する
マメは、練習量が急に増えたときに悪化しやすいと考えられます。そのため、合宿や強化期間の前後には、手の状態を確認する時間を設けるのも一案です。乗艇の本数、エルゴの時間、そして握りの強さを合わせて見直すと、手への負担を減らせる場合があります。
ボート部の練習量の考え方はボート部の練習量はきつい?、他の怪我の予防は肋骨疲労骨折の予防記事や腰痛予防のストレッチ記事でも扱っています。
回復を支える食事
皮膚の状態と食事の関係については、row2k の記事には、皮膚のためにビタミンA・B5・Cをとる、といった食事の紹介もありますが、これは筆者の経験に基づく紹介です。栄養面は一般的な食事の基本を押さえることが先決であり、詳しくは大学ボート部の食事メニューをご覧ください。
全国の大学ボート部のデータを見て練習環境を考える
手のケアは、自分の部の練習環境や活動量とも関わるテーマです。他大学が年間にどれほどの大会や練習をこなしているかを知ると、自分の部の位置づけを考える材料になります。
全日本大学ローイング選手権(インカレ)の直近の結果は2025年度の結果ページで、各大学の出場種目や戦績は大学別ページ一覧で確認できます。種目ごとの歴代優勝校を見たい場合は、たとえば男子エイトの歴代結果も参考になります。
まとめ
ボート部のマメは、摩擦と握り方、汗、用具の状態など複数の要素で起こりうるトラブルです。要点は次のとおりです。
- ハンドルを握りしめず、グリップをゆるめる意識を持つ(フォームの見直しとセットで)
- ハンドルを清潔に保ち、必要に応じてテーピングや汗対策を試す
- 水ぶくれはできるだけ破らず、破れたときは洗って清潔にし、保護する
- 赤み・熱感・膿・強い痛みがある、1週間たっても改善しないときは医療機関に相談する
- 手の違和感を早めに報告できる雰囲気を、部の中で作っておく
出典
- Persephone Wynn「Dealing with blisters」British Rowing、2020年6月9日(PDF)
- Alex Riddell-Webster「Rowing Blisters – Prevention and Treatment」Junior Rowing News、2021年4月20日(記事)
- Adam Bruce「Care and feeding of rowing blisters: Swiss Cheese Hands」row2k、2014年1月14日(記事)。筆者の経験に基づく工夫の紹介を含みます。
- byouki scope「水ぶくれの原因と対処」長谷川佳子医師監修、2017年11月13日公開(記事)。靴ずれ等を例にした一般的な解説です。
- 大会結果・大学別データは日本ローイング協会(JARA)公式サイト(大会情報)の公表内容に基づいています。
本記事は一般的な情報の紹介であり、症状がある場合は医療機関にご相談ください。
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